IGLOO DIARY

源にふれろ#6

4/10/05...青野さんの家に行くとレコードやCDは全て無くなっており、壁の本棚には膨大なファイルや本が整然と並んでいる。ソファに座って待っていると、大量の紙束を抱えた青野さんがやってきて、テーブルの上にそれを置く。青野さんはさめざめと泣きながら「いつか澁谷氏がテレジーンの絵に気付いてくれると思ってたんですよ」と言う。青野さんは本当は若い頃からテレジーンの絵の研究をしていて、日本では随一と言われるほどの図版や資料がここに集まっているのだという。青野さんは「自分から発見した人にしか、これらの資料を見せたくない」のだと語った。

8/26/05...僕は中学一年生ぐらいの少女になっていて、古い汽車に一人で乗っている。深夜に知らない駅で停車して、乗務員に「故障で明日の朝まで動かないから降りて」と言われ、ホームに降りてみると、皿に盛られた様々な料理が沢山の会議テーブルに並べられている。ホームのはじからはじまで、バイキング・レストランのような様相を呈している。コンクリートの床に座って食べているのはすべて自分と同年代ぐらいの中学生ばかりで、ひと学年分は居そうな人数である。皆、緋色のジャージを着ている。食べ物を求めて会議テーブルの間を彷徨うが、彼らは僕を無視するでもなく敵対視するでもない、疲れたようなからかうような曖昧な視線を投げかけてくる。それぞれ手にパンとか飲み物とか、料理の皿を持って食べていて、遠足の食事時間に迷い込んだような錯覚に陥る。孤独な気分で食べ物を物色しているのが嫌になってきて、また汽車に戻って、誰も居ない車両で寝ようと考えるが、客車はどこも人で溢れかえっていて、ホームから持ってきた食べ物で宴会のようなことをして騒いでいる。「駅を出てどこか宿を探そうか」とも考えるが、そういえば今自分は少女なので、一人で夜道を歩く事を思うと途端に心細くなった。

9/25/05....大きな古い二階建ての家に関さんの家族と暮らしている。二階が十二畳ぐらいの広間になっていて、古美術や仏像、ギター、電子ピアノなどが所狭しと並べられている。そこで関さん、関さんのお父さんと川の字に布団を敷いて寝ている。しばらく寝ているうちに、室内がものすごく暑くなっているのに気がつき、起きて畳を見ると、ところどころ真っ赤に発光している。畳の下が燃えているのだ。触れるととんでもなく熱いが、不思議と煙は立っていない。隣で寝ていた関さんを起こすと、関さんはパーティーグッズの三角帽を被ったままむっくり起き上がって、不機嫌そうに「...なんすか」と言う。「部屋、暑いでしょ。ほら、畳!燃えてるでしょ」と、焦って訴えるが、関さんはチラッと畳を見やっただけで、興味なさそうに「別に暑くないよ。大袈裟なんじゃないの」とブツブツ呟き、また寝てしまった。そのままにしておくわけにもいかないので、とにかく消火しなければならない。部屋を出て急な階段を降りると、タイル張りの浴室みたいな部屋に出る。シャワーもバスタブも無いので不気味な感じを受ける。床は手前に下る格好で、わずかに傾斜している。部屋に入ろうとすると、実際の床は入口の床の高さよりも2mほど低く、入口と同じ高さの狭い通路が部屋の端と中心に斜めに作ってある。この通路の幅は20cmほどで、うっかりすると足を踏み外しそうだ。床は何年も掃除していないらしく、タイルの上に黴や髪の毛などが散乱していて不潔だ。天井は高く、覗き込むと4mぐらいある。入口の反対側の壁の高い所にはハシゴと窓があるので、「あそこから出るしかない」と考え、勇気を出して20cm幅の足場をおっかなびっくり渡る。そうやって中に入ってみると、入口からは見えなかった別の部屋に続く通路が、向かって右側の壁の奥(入口に並んだ形)に空いているのが分かった。ハシゴに登るには足場を向こうの壁まで横断しなければならないが、別の部屋へ行くなら壁際の足場を行けば良いので断然早い。「これはいいぞ。いい予感がするぞ」と思う。

2/18/06....地方の公民館みたいな建物に居る。1階はイベント会場、調理場などがあり、2階から上は宿泊所になっている。珍しい調理器具が展示されている調理場を見学していたら関さんに偶然会うが、「あれ?なにしてんの...?」と、ばつが悪そうにしている。大井君がスタッフとして働いていて、10cmぐらいの金属の太い棒の先に丸い玉がついた器具を手に取り、「これ便利ですよ。この中に卵と調味料を入れておくと、煮卵になるんです」と説明される。「大井君!」と声をかけるが、意地悪そうな一瞥をくれるだけで、全然答えてくれない。関さんと調理場を出て喫煙所へ行く。「大井君って、冷たいんですね」と関さんは言う。「いや、子供の頃は自転車の乗り方を教えてくれたりして、仲良かったんですよ。大人になると色々あるから...」と大井君を擁護してみるが、どこか歯切れの悪さが残る。関さんと別れて2階の宿泊所に行くと、一番広い部屋でワークショップが行われている。それは調律師がピアノを調律して、参加者にその音の数値を教えるというものだった。参加者は「442!」とか「352!」などと、我れ先に叫んでいるが、どれも外れているらしく、調律師は明らかに苛立っている。戸口で見ていた僕を見つけた調律師が、「時間の無駄だべ?」と、泣き笑いのような顔で言った。自分の布団が敷いてある部屋に戻ると、布団の上に紙が置いてあったので見ると、「こんな所つまらないので、『カレー合宿』に行きます。澁谷さんも誘おうと思ったけど見当たらなかったので先に行ってます 関」と書いてあり、合宿所への地図もついていた。

5/15/06....「リズムマット」という商品が雪のなかに埋まってしまった、と小岩さんが嘆いているので、熱い温風が吹き出るホースを雪にあててどんどん溶かしていく。雪は水になっていくと思ったのに、波の花みたいにフワフワ飛び散って、際限なく増殖していく。小岩さんがうわずった半笑いの声で「澁谷君、それじゃ駄目。それじゃ駄目」と言うのでホースを投げ捨てると、吹き出ていた温風が炎になって、ガスバーナーみたいに地面を焼いているので、「あのまま続けてたら『リズムマット』を焼いてたと思うよ」と小岩さんに言われ、「人が善かれと思ってやったのに...」と、くさる。

8/30/06....病院を改造した長沼のマンションが安いというので、戸田君と下見に行く。建物自体は塔もしくはロケットのような形状のひょろ長いビルが4本ぐらい横に連なっていて、真ん中ぐらいの階に廊下がついていて隣の棟へ移動できるようになっている。マンションの中には売店や食堂もあるが、これは病院の頃のものをそのまま残して営業しているらしい。「レコード屋もあると思うんですよ」と戸田君が言うので半信半疑でついていくと、「横浜銀蝿」というのぼりの立っている店があって、「ここか?」と入って行くと、足元の床が黒い。よく見るとグジャグジャ動いていて、さらによく見ると床一面に海苔のようなものが敷きつめられていて、それが生きもののように蠢いているのだ。戸田君から「これはですね、ここに来るお客さんが吐いたものが固まってこうなったんですね」という説明を受けるが、とにかく気味が悪いので一刻も早く逃げ出したい気持ちでいる。

10/8/06....中学校でイベントがあり、忙しくしている。なぜかちよじの姿が見えたので捕まえようと追いかけるうち、4階の窓からピョーンと落下していってしまった。慌てて表に出たら、路上に猫の形をした真っ赤な石があって、たまたまそこに居た女が見ていたらしく、「落ちた瞬間にこうなったから、身体は全部消えて血だけが固まったんですね」と説明してくれる。

10/10/06....富永君とメールのやりとりができるようになって、彼の発案で、彼の好きなフランス映画のロケ地へ旅行することになる。富永君は20年前に僕が想像していたような醜男ではなく、ジャニーズっぽい爽やか好青年だった。ロケ地は、ちょうど映画の物語の設定のまま、若者達の大勢住む下宿になっていて、その殆どは若い女の子、しかも日本人だった。絵里子という、安達祐実とインリンを混ぜたような奇矯な顔をした女が居て、「映画を観て来たんですよね?」と話しかけてくる。富永君はその子が「可愛い」と言う。僕は全く好みではない。絵里子は、自分達の家の「映画に使われた部屋」を案内しようとするが、僕はそもそもその映画に関心が無いし、僕が居ては富永君も邪魔だろうと思い、絵里子の目を盗んで途中で抜け出し、暗くなった外の路地を散歩する。しばらく歩くと飲み屋らしき店がある。旅先の気安さからか、「こういう店で思い切って酒を飲んでみたい」という気持ちになり、ドアを開けてみると、大勢の学生らしき若者たちで混み合っている。「こういう苦手な人たちにも馴染んでいかなければいけない」などと考え、陽気な振りをして「あーっすいませんどもどもーっ」と言いながらどんどん店内に入っていく。すると人ごみの中から白い手がスーッと伸びてきていきなり腕を掴まれる。驚いて振り向くと、絵里子が物凄い形相で僕を睨みつけていた。「お前は人の好意を無視するのか!」と、先ほどとは別人のような太い声で怒鳴られ、怯みつつも「いやいや、そんなつもりじゃなくて、ちょっと旅の疲れが出て...気を遣わせるのも悪いから、一人で呑んでいようかなと思って」と言い逃れをするが、絵里子は僕の腕を掴んだまま「馬鹿にするな。そんな話を誰が信じるか」と一向に態度を軟化させないので、「これはちょっとやっかいだぞ」と思う。そこで思い切って、「実は、さっきの僕の連れが、絵里子さんに気があるみたいだったから、僕は遠慮したんですよ」と言う。/昼間、絵里子の運転する車で郊外へ出かける。町並みは栗沢のあたりを彷彿とさせる。「野生公園」という看板のある整地されていない駐車場で車を降り、絵里子に導かれるまま岩だらけの斜面を降りる。四苦八苦して降りながら、何故か、いつ死んでも平気だと考えている。と同時に、一緒に長時間行動したせいか、絵里子に魅力さえ感じ始めている(絵里子が車の中で『富永君は帰ったから何をしても自由だ』と話したせいもあるかもしれない)。慣れた足取りでスイスイと斜面を降りて行く絵里子の後ろ姿を眺めていると、突然、絵里子の身体が目の前で崩壊する。人形のようにバラバラになるのではなく、砂袋に穴を開けたように、全身がザラーッと地面に流れていく。僕は自分の浅はかさを恥じながら、恐れも手伝って車へ全速力で逃げ帰る。駐車場はいつの間にか整地されてスーパーの駐車場みたいになっており、何台も車が停まっている。絵里子の車がどれだったのか思い出せず逡巡していると、クラクションを鳴らされ、振り向くと関さんがデミオに乗っていて、大声で「ナツさんが急病!」と言うので大慌てで車に乗り込む。しかしほどなくして、関さんとの会話のズレから「関さんが『ナツさん』と言っているのはモモさんの事だ」と気付き、「このまま一生ナツには会えないのではないか」という暗澹とした気分に陥る。

10/13/06....居酒屋のような、宴会場のような店の一角を借りて「ブラックアイドスーザン」を演奏している。ナツがホルン、ベースが哲雄さん、ギターが朝倉さん。ドラムは幾郎さんと長谷川さんがセットを並べて2人で叩いている(幾郎さんが堅実にビートを刻んでおり、長谷川さんはサニー・マレイみたいにやたら手数の多い即興をしている)。僕は買ったばかりのバンドネオンのような楽器を弾いているが、ぐにゃっとした低音(しかもピッチが安定しない)しか出ず、うまくいかない。哲雄さんのベースラインに不満を感じる。曲の後半でユーフォがリフを吹く部分になり、唐突に背後から本当にユーフォの音が聴こえたので、見ると中崎さんが本当に来て吹いている。皆、中崎さんが来るのを知っていたらしく、僕が驚いてソワソワしているのを面白そうに見ている。中崎さんは顎と鼻の下いっぱいに髭をたくわえており、山男みたいになっている。「やー、澁谷さん。あっちで話でもしようか」と、僕の手を握る。手をつないだまま小上がりから降りて靴を履き、居酒屋のカウンターの方へ移動するが、中崎さんがずっと手を離そうとしないので、周囲の視線が気になる。/ビルの屋上でライヴイベントが行われていて、Oさんが歌っている。相馬さんとそれを見ている。どう見てもOさんなのだが、イベントの中では彼がRECKということになっていて、ハンドマイクで「PISTOL」を歌っている。Oさんは僕らが居るビルの屋上の端まで行って際の所でしばらく歌っていたが、何を思ったのか、広い車道を挟んだ隣のブロックのビルへジャンプして飛び移ってしまう。しかも、隣のビルはずっと背が低く、Oさんは4階分ぐらいの高さを飛び降りたことになる。Oさんの巨体が空中で弧を描き、眼下のコンクリートの上に餅みたいにベタッと落ちるのを見るが、彼はすぐに立ち上がってまた「お前の頭をねーらーうー」と快活に歌い始める。相馬さんに「大丈夫ですかね、あれじゃ絶対怪我してますよね」と言うと、相馬さんは「いやでも、クスリやってるとああいうことが出来るんですよ。何も気にならなくなるし、身体能力も上がるから」と冷静に言う。/Oさんが飛び降りたビルの内部に居る。建物は巨大な長方形で、東京ドーム10個ぶんぐらいの容量があるらしい。日本の忍者の末裔が秘術を守るため幕末に中国に渡り、今度はよく訓練された中国人たちが大正時代に日本にやってきて、自分たちの住処としたものだという。大部分はコンクリートで出来ているが、ふつう鉄筋にあたる部分が全て竹で組まれているという。部屋は各階に50ぐらいあるが、隠し部屋が全体で6万室もあるという話だ。その緻密な隠し部屋やからくりを収めるために、通常の通路や廊下が微妙におかしな段差があったり、階段の幅が一定でなかったりする。関さんと二人きりで居るが、「ここはうまい酒が呑めるんですよ」などと言っているので、つまらないと思うが、関さんと離れてしまうと外へ出られる自信が全く無く不安なのでどうすることもできない。大正時代の建物なので、当然エレベーターなどは無く、無限に続くかと思われるような入り組んだ暗い廊下や階段をえんえん行き来したりする。20畳ほどもある広い部屋全体が浴室ということになっていて、そこに何となく入っていくと、浴槽や洗い場などはなく、ただのコンクリート打ちっぱなしの床にごみや虫の死骸が散乱していて寒々と不潔な印象を受ける。比較的ごみの少ないあたりを選んで歩いて行くと、奥の壁に、一見魚拓のような絵が飾ってあって、よく見ると魚ではなく、人間の骨に墨を塗って印刷したように思える。絵の裏からコーヒーの匂いがするのでめくってみると、更に畳ぐらいの隠し部屋があって、朝倉さんによく似た女性が事務机に座って、何かの書類の文字を自分の小さい手帳に一心に書き写している。不気味な気配を感じつつもそういう素振りを見せないように、努めて自然な感じで近づき「朝倉さん?」と話しかけると女性は振り向き、「ここ、トイレですよ」と言う。女性は改めて見ると朝倉さんには全く似ておらず、見知らぬOL風の人だった。

10/19/06....苫小牧から船に乗り、海ではなく河を通って札幌へ行こうとしている。本当はその日の朝には発たねばならなかったが、寝坊をして夕方の便に乗っている。船に乗り遅れたら乗船券は無効になる筈なので、いつ乗務員に咎められるかと思い、どこか後ろめたい気持ちでいる。本当にもうすぐ船が出るという時になって、デッキに出て港ならぬ川岸を見下ろしていると、旅行鞄を持った大野さんがこっちを見ているのを見つける。あっさりと船を降りて、大野さんの車に荷物を積み、僕の運転で札幌まで行くことになる。苫小牧から札幌へは1度だけ車で行ったことがあるので(実際はそういう経験は無い)、なんとか行けるという自信がある。運転し始めてすぐに、大野さんに「私は一人で船で行くつもりで居たのに、なんでこんな勝手な事をするんですか」と言われる。自分が寝坊をして乗船券が無効であることを悟られたくないので、「車の方が早いし酔わないんだよ」と説明する。しかし走るうちに、どうも道順の記憶が曖昧になってきて自信が揺らぐ。風景も、石巻あたりの様子に似ていて、札幌へ向っているようには思えない。いつの間にか後部座席に坂本龍一が乗っていて、「あのね、これはね、逆方向に3時間も走っちゃったわけ。一回Uターンして戻っていけば、栗山に出られると思うんだけど」などと口を挟んでくる。栗山に出られれば後は確実に道を知っているので安心なのだが、大野さんと口論をした手前意地になっており、素直に意見に従うことができない。そうこうするうちに外の景色は石巻どころか倉敷の裏路地みたいな狭いところに変わっており、路傍にごちゃごちゃした、夥しい虫みたいなものが蠢いているのが見える。「あれ何?」と言うと、大野さんは窓から手を伸ばして蠢いている塊をすくい取ってしまう。驚いて見ると、大野さんの手から逃げ出した小さくて黒いものが車内を駆け巡り、パニックになる。「わーっ!!」と大声をあげて追い払うと、それらはあっけなくパラパラと落ちた。実際は虫でも何でもなくて、ただのマスタードシードだった。

1/8/07....朝さんの家に行ったら、古いビリヤード場をそのまま借りたというだけあって、だだっ広い空間にビリヤード台が何台も並んでいる。工藤さんも一緒に居る(間借りしている?)が、(工藤さんはビリヤードが上手いから、皆でやることになったら僕が出来ないのが露呈してしまう)などと考えている。台の並ぶ空間の一角が畳の小上がり(6畳ぐらいある)になっていて、どっかと胡座をかいた朝さんは「ここはいずれネットカフェにしようと思うんですよ」と僕に言う。「台の一部は既にパソコンに改造した」と言うので見てみると、台の端がくりぬいてあってパソコンのキーボードが埋め込んであるが、キーは全てハングル文字である。近くにいた誰かが「店の名前はインニンロウ(隠忍楼)でしょう」と朝さんに言うが、朝さんはきまりが悪そうにそっぽを向いている。大きな窓から入る光で部屋が明るく気分がよいので、暗い名前はこの場所に合わない、と思う。


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